「今月も生活はカツカツだけど、NISAの積立だけは死守した」——もし心当たりがあるなら、この記事はあなたのために書きました。
私はこのブログで、ずっと「長期・積立・分散」を主張してきました。今もその考えは1ミリも変わっていません。それでも最近、強く思うことがあります。非課税枠を埋めることが目的化して、二度と戻らない”今”を削っていないか、と。
実はこれ、私だけの感覚ではありません。「NISA貧乏」という言葉が生まれ、SBI証券や大和証券、日本総研といった金融のプロたちまでが警鐘を鳴らし始めています。
この記事では、公的統計が示す「ちょっと残酷な事実」を出発点に、積立を続けながら”今”にもお金を使うための線引きを整理します。煽るためではなく、10年後20年後に後悔しないための記事です。
📝 この記事でわかること
- 「NISA貧乏」とは何か、なぜ起きるのか
- お金のピーク(60代)と健康寿命がズレているという事実
- 70歳以上でも貯蓄が減っていないという統計
- 若い経験が生む「記憶の配当」という考え方
- 積立を減らしていい3つのサインと、越えてはいけない一線
「NISA貧乏」は、もう証券会社が警告するレベルになっている
まず、言葉の整理から。NISA貧乏とは、非課税のメリットを最大限に受けようとするあまり、趣味や交際費、ときには食費や生活防衛資金まで削って投資に回してしまう状態を指します。
きっかけは「枠を使い切らないと損」という焦りです。SNSで「最短5年で埋めるのが正解」といった極端な意見を目にすると、つい自分の生活とは無関係に金額を引き上げたくなる。日本総研はこれを「投資のための人生」か「人生のための投資」かという言葉で問い直しています。
ちなみにデータを見ると、2024年時点で20代・30代のNISA利用者の年間投資額は「0円超〜60万円以下」がボリュームゾーン。大半の人は、実は制度の趣旨どおり無理のない額で積み立てています。焦っているのは、いつもSNSを見ている一部の私たちだけなのかもしれません。
お金のピークは60代。でも、体のピークはもっと早く終わる
ここからが本題です。「若いうちは我慢して、老後に楽しめばいい」——この考えが成り立つのか、公的統計で確かめてみます。
総務省の家計調査によると、二人以上世帯の貯蓄現在高は、世帯主が60〜69歳の世帯で2,843万円とピークを迎えます。若いころの節約と積立は、ちゃんと実を結ぶわけです。
問題はここから。厚生労働省が示す健康寿命——日常生活に制限なく過ごせる期間は、男性72.57歳、女性75.45歳(2022年)。一方の平均寿命は男性81.05歳、女性87.09歳なので、男性は約8.5年、女性は約11.6年、「生きてはいるけれど、日常生活に制限がある期間」が続きます。
【図1】お金のピークと、体のタイムリミットはズレている
貯蓄の推移はイメージ。年齢の目盛りと数値は公表統計にもとづく
出典:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年平均結果」、厚生労働省 e-ヘルスネット「平均寿命と健康寿命」(健康寿命は2022年)
つまり、お金が一番貯まったころには、体のほうが先にタイムリミットを迎えている。60代でピークの資産を持っていても、その資産を”元気に使える”時間は、思っているより短いのです。
証拠:70歳を過ぎても、貯蓄はほとんど減っていない
「いや、老後にちゃんと使うから大丈夫」——本当にそうでしょうか。同じ家計調査が、その答えを出しています。
70歳以上の世帯の貯蓄現在高は2,471万円。60代のピーク2,843万円から、わずか約13%しか減っていません。しかも二人以上世帯全体の平均は2,059万円で、7年連続で増加し、2002年以降で最多を更新しています。
【図2】70歳を過ぎても、貯蓄はほとんど減っていない
➡ 60代のピークから70歳以上への減少はわずか約13%。全体平均も7年連続で増加し、2002年以降で最多。つまり多くの世帯が使い切れていない。
出典:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果(二人以上の世帯)」
これは何を意味するか。多くの世帯が、貯めたお金を使い切れないまま持ち続けているということです。老後不安から取り崩せない、使い方が分からない、そもそも使う体力がない——理由はさまざまですが、結果は同じ。「あとで使おう」の”あと”は、想像より短く、想像より使いにくいのです。
若いときの経験には「記憶の配当」がつく
ここで紹介したいのが、ビル・パーキンスの著書『DIE WITH ZERO』で語られる「記憶の配当(メモリー・ディビデンド)」という考え方です。
旅行でも、ライブでも、友人との無駄話でも、経験は一度きりで終わりません。あとから何度も思い出し、写真を見返し、誰かに話すたびに、満足感という”配当”を生み続けます。そして重要なのは、早く経験するほど、配当を受け取る期間が長くなるということ。
これは投資の複利とまったく同じ構造です。違うのは、元本が「お金」ではなく「経験」だという点だけ。
【図3】同じ体験でも、早いほど「配当」を長く受け取れる
思い出す・見返す・語る——経験は何度も満足感を生む(記憶の配当)
➡ 構造は複利とまったく同じ。違うのは元本が「お金」ではなく「経験」だという点だけ。しかも経験には買い戻せない期限がある。
考え方の出典:ビル・パーキンス『DIE WITH ZERO』(ダイヤモンド社)の「記憶の配当」より
30歳の旅行は、その後50年ぶん思い出せます。70歳の旅行が生む思い出は、どうしても短い。しかも30代でしかできない体験、子どもが小さいうちにしかできない体験は、お金を積んでも後から買い戻せません。経験には”買える期限”があるのです。
それでも、積立をやめてはいけない
ここまで読んで「じゃあ積立をやめて使おう」と思った方——それは違います。私の主張は「投資をやめろ」ではなく、「バランスを取り戻せ」です。
理由は単純で、積立をやめた人が最も損をするから。相場が下がるたびに退場していては、複利は一生働きません(この話は暴落で退場しないための避難訓練に書きました)。
さらに、若いうちの積立は少額でも効き方が違います。時間という最大の武器を持っているのは、いつだって若い人のほうです。だから「積立をやめる」のではなく「積立額を身の丈に戻す」。ここを間違えないでください。
わが家の線引き:積立を減らしていい3つのサイン
では具体的に、どこで線を引くのか。わが家の基準はシンプルに3つです。
【図4】積立額を見直すサインと、絶対に越えない一線
⚠️ 積立を減らしていいサイン
- 生活防衛資金(生活費6か月分)を崩して積み立てている
- 「今しかできない経験」をお金を理由に3回以上見送った
- 積立額を口に出すと少し苦しい
🚫 これは「使う豊かさ」ではない
- 借金・リボをしてまで遊ぶ
- 生活防衛資金を削って旅行する
- 積立をゼロにしてやめてしまう
➡ 正解は「やめる」ではなく「続く金額に戻す」。土台が守られている前提でだけ、”使う豊かさ”は成立します。
①生活防衛資金(生活費の6か月分)を崩してまで積み立てている。 これは投資ではなく、ただのリスクです。まず現金を確保してください。
②「今しかできない経験」を、お金を理由に3回以上見送った。 友人の結婚式、親との旅行、子どもの行事。3回続いたら、それは節約ではなく機会損失です。
③積立額を口に出すと、少し苦しい気持ちになる。 続けられない金額は、いずれ必ず止まります。続く金額こそが最適額です。
逆に、借金をしてまで遊ぶ・生活防衛資金を削って旅行するのは論外です。「使う豊かさ」は、あくまで土台が守られている前提の話。ここを取り違えると、ただの浪費になります。
まとめ
- 「NISA貧乏」とは、非課税枠を埋めることを優先して生活や経験を削りすぎる状態。証券会社やシンクタンクも警鐘を鳴らしている
- 若いうちの経験は「記憶の配当」を長く生む。経験には買い戻せない期限がある
- ただし積立はやめない。やめるのではなく、続く金額に戻すのが正解
- 生活防衛資金を崩す・借金をして使うのは論外。土台が守られている前提の話
投資の目的は、資産を増やすことではなく、人生を豊かにすることでした。数字が目的になった瞬間、順番が入れ替わってしまいます。今月の積立を1回分だけ減らして、その分で家族とご飯を食べに行く。それは負けではなく、たぶん、いちばん正しい使い方です。
参考文献
- 総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果(二人以上の世帯)」 https://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/index.html
- 総務省 報道資料「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果」 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01toukei07_01000286.html
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「平均寿命と健康寿命」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/hale/h-01-002.html
- 日本総研「『投資のための人生』か『人生のための投資』か ― NISA貧乏、NISA損切りから考える持続可能な資産形成とは ―」 https://www.jri.co.jp/report/economistcolumn/detail/16525/
- 第一生命経済研究所「『NISA貧乏』を取り巻く課題とは ~貯蓄から投資からFinancial Well-beingへ~」 https://www.dlri.co.jp/report/macro/598157.html
- SBI証券「NISA貧乏を避ける|無理なく続ける資産形成の考え方」 https://go.sbisec.co.jp/media/report/nisa_dojo/nisa_dojo_260416.html
- ビル・パーキンス『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ダイヤモンド社)
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の金融商品の売買や、特定の支出行動を推奨するものではありません。統計数値は各公表資料の最新版にもとづきます。投資には元本割れのリスクがあり、家計の状況は人それぞれ異なります。最終的な判断はご自身の責任でお願いします。

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